世界初の「第3の血の出ないメス」が手術を変える!

Pocket

世界初の「第3の血の出ないメス」が手術を変える!

本日は日本外科学会に参加しました。

その中の発表の一つです。「世界初」「手術を変える」、どれほどすごいものなのか?と興味を持ち聴講しました。その製品をご紹介します。

滋賀医科大学バイオメディカル・イノベーションセンターの谷徹名誉教授等が開発し、医療機器メーカーの日機装(甲斐敏彦社長)が製品化を手掛けた「Acrosurg.(アクロサージ)」です。


電気メスは、切離と同時に止血が出来る「血の出ないメス」

外科手術はある意味、出血との戦いです。出血を最小限にくい止め、出血が起きた場合いかに迅速かつ手際よく止血し得るかが手術成功のカギを握るともいわれています。

そうした医療現場のニーズに応えて誕生したのが、電気メスです。

電気メスは、切離と同時に止血が出来る「血の出ないメス」で、外科手術には必須の医療機器です。

それでは、今回の製品は、従来品と何が違うのでしょうか?


従来の電気メスの特徴

従来の電気メスは,その原理により2種類に大別されます

高周波を用いたベッセルシーリングシステム(エンシール,リガシュア)

従来のバイポーラ鉗子型電気メスの機能を応用し,30k~300MHzの高周波を組織に局所的に照射することで細胞内にジュール熱を発生させ組織を凝固したり、切断します

超音波凝固切開装置(ハーモニック ,ソノサージ)

先端金属ブレードが超高速で振動することにより、摩擦熱でたんぱく質の変性を起こし、凝固塊を生成させ、凝固を行いながら、同時に振動により機械的に組織を切断します。

ただ、高周波や超音波を用いる従来の電気メスには、改良すべき点があります。

両者とも、切離する箇所の組織表面を加熱することでその機能を果たすため加温のON-OFFスピードは遅く、組織は焦げ易く、周辺にも熱損傷を与えてしまいます

電気メス使用中のオペ室には、ホルモン焼き屋のような肉の焦げる臭いと煙や湯気が漂い切離部分にできた焦げは、剥がれる際に再出血の原因にもなります

煙やミストはしばしば視野を妨げ、手術の手を止める必要があります


電子レンジと同じマイクロ波を使う「アクロサージ」

アクロサージには2つの特徴があります。

1つ目は加熱方法です。電子レンジと同じ2.45GHz帯のマイクロ波を使って生体組織を焼灼します。

生体組織の水分子にマイクロ波が直接作用し、水分子が発熱するので、生体組織の外側だけでなく内側も加熱される点で、高周波や超音波と大きく異なります

生体内の水分子がなくなるとマイクロ波が作用しないので患部組織の「焼きすぎ」ということがなくなります。また、煙やミストもほとんど発生しません

2つ目は、世界初となったハサミ型と鑷子型の先端形状です。

従来技術の外科手術用エネルギーデバイスは、組織を挟んだりつまんだりすることができるくちばし型が多く、くちばし型の部分で組織を挟んで焼き切るという施術イメージでした。

これに対してアクロサージのハサミ型は、マイクロ波で組織を焼灼した部位を、止血すると同時に切り裂いていくという施術イメージになります。

「マイクロ波の照射をハサミ型と鑷子型の先端部だけにとどめながら組織を焼灼できるようにする技術は極めて難しい。」ということだそうです。

3つの方式の比較

本日の発表で演者が下記を強調されていたのが印象的です。

  • 血も出ない
  • 煙も出ない
  • こげない
  • サクサク切れる

従来の製品と比べて、非常にメリットがあるようです。

ここで3つの方式の特徴を比較しました。(下記表)

やはり最大の特徴は、水分子に直接影響し入熱量が少ないため、煙も出ない、こげない、ということです。

余計な部分まで熱損傷しない、ということですね。

そのため、他の方式で出る煙や水蒸気がほとんど発生しません

また、切離と止血が同時に行われるので止血効果が非常に高いです。

引用元 <https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000017014.html>

下記ビデオを見ると、その効果がよく分かります。

また最後の「一気通貫」の操作は、手術の途中でデバイスを交換せずに手術できることを表しています。

従来は、下記1~5のステップについて、止血がメインなのか、剥離や切離がメインなのかにより、それぞれ得意なデバイスに変えて手術を進めるのが一般的でした。

アクロサージは、止血、剥離、両方とも従来製品を上回るため、デバイスを変更する必要がありません。本日の発表でも、そのメリットは紹介されていました。

引用元 <https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000017014.html>


課題

いいことずくしのデバイスですが、本日の発表では課題も触れられていました。

  • シャフトが短く開胸手術用のみ、主流の腹腔鏡手術には使えない

こちらは腹腔鏡用のシャフトの長いデバイスのプロトタイプが完成しているとのことで、早く製品化されることが期待されます。

  • メスの先端が回転しない

先端が手首のように回転しないので、ハサミの角度を変えたい時にはシャフトの角度ごと変えないといけません。そうすると、アプローチできないケースが出てきたり、アプローチできても無理な態勢になります。

実際にビデオで紹介頂いた症例は、右手と左手をクロスしてすごく不自由な態勢で手技を続行した、とのことでした。
腹腔鏡下では、更にシャフトの動きは制約を受けるので、腹腔鏡用デバイスでは改善が必須だと考えられます。

  • ハサミの切れ味が途中で鈍る

途中で切れなくなってくるので手術の途中でデバイスを交換する必要があるとのこと。是非改善して欲しいと、強調されていました。

  • シャフトが非常に熱くなる

先端の患部接触部ではなく、シャフトがものすごく熱くなるそうです。これはマイクロ波を発生させるためのエネルギーかもしれませんが、こちらも改善が必要です。


なぜイノベーティブだと思うのか?

このデバイス、もともと「MR画像誘導下手術システム」用の電気メスとして開発されたものです。

MRIを使って身体の深部構造を3次元に構成して、リアルタイムで見て判断し、手術を進めるやり方です。

MR画像下では、高周波も使えないため、MRと干渉しないマイクロ波の手術器具がどうしても必要だったのので、開発したそうです。

「マイクロ波の照射をハサミ型と鑷子型の先端部だけにとどめながら組織を焼灼できるようにする技術は極めて難しい。」という点を克服した技術イノベーションです。

やはりこの点が最大のイノベーションだと思います。


人々の暮らしをどう変えるのか?

1つのデバイスで、生体組織の剥離・凝固・止血・脈管シーリングといった一連の手術操作ができるため、手術の時間短縮につながり、術者だけではなく、患者様の負担軽減も期待できるという点で、人々の暮らしを変えます。術者の困り事をどのように解決しているのか?具体的な内容をまとめます。

「焼灼によって発生する煙やミストで視野が遮られる。ミストが消えるまでの待ち時間がもったいない」

⇒ 少量の水蒸気は発生するものの、視野はじゃまする煙霧でない。

⇒ 手術の安全性、スピードアップ

「普通のハサミや攝子を使うのと同様のスピードで、切離や剥離と止血が同時に出来たらいいのに」

⇒ 普通のスピードで、ストレスなく切離、剥離が行える。しかも止血箇所にかかる圧力に従来品との遜色はなく、止血力は高い。直径5㎜の脈管まで問題なくシーリング(組織同士をくっつける事で糸を使わずに血管を止め、出血を防ぐ)できる。アクロサージによる脈管や組織を封止する強度(封止圧)は、血管の場合で1000mmHg前後の封止圧を実現しており、従来型のクリップや、糸での結紮と同等レベルである。

⇒ 手術スピードアップ

手術用メスや電気メス、鉗子、そして従来型の高周波や超音波を使う外科手術用エネルギーデバイス、クリップ、縫合針、糸などさまざまな手術器具を、術中に持ちかえるのは面倒」

⇒ アクロサージは、皮下組織の切離、組織・癒着の剥離、臓器・組織の切離・止血、脈管切断・封止まで、器具を持ちかえずに行える。

⇒ 手術スピードアップ

「従来品は、温度が上がり過ぎるので30秒ぐらいしか連続使用できないと使用説明書にある。もっと長時間、連続で使いたい」

⇒ 分単位で連続使用できる。手術の流れを途絶させない。

⇒ 手術スピードアップ

「神経周辺の手術の際、従来品は電気が流れると周りの組織がピクッと動く。あれがなければ手術はもっとやりやすいのに」

⇒ アクロサージは、電流が流れないので、まったく痙攣しない。

⇒ 手術スピードアップ

「切離箇所は焦げるし、周辺組織に与える熱損傷も小さくはない。もっと熱損傷を減らせないだろうか」

⇒ 焦げない上に、組織の焼灼による損傷範囲も施術断面の両側1mm程度に押さえられている。

⇒ 不要な組織障害減、回復スピードアップ

「従来品は、リンパ管の封止が不完全なため、リンパ液が漏れて、がん細胞の播種・再発につながる」

⇒ 封止が完全にできるので、リンパ管断端からのがん細胞の漏れが阻止され、再発の原因を残さない(滋賀医科大学のデータ)

⇒ がんの予後改善


まとめ

まだまだ課題はありますが、それが克服されると、本当に手術を変える画期的な製品となるかもしれません。今後の開発に期待したいです。


参考資料

  • 世界初の「血の出ないメス」が手術を変える

<http://healthcare-biz.jp/2016/11/世界初の「血の出ないメス」が手術を変える/>

  • 出血なしに血管を切離――”第3″のデバイスの実力は?

<http://tech.nikkeibp.co.jp/dm/atcl/feature/15/327441/041800190/?ST=health&P=1>

  • 電子レンジと同じ原理で”最高の外科”を実現、日機装が世界初の製品化 (1/2)

<http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1607/29/news054.html>

  • 肺癌手術におけるエネルギーデバイスの特徴と使いわけ

<https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=4083>

  • 超音波凝固切開装置の特徴や種類のまとめ | 目指せ、トップナイフ!〜消化器外科医のブログ〜

http://top-knife.com/ultrasonically-activated-devices/

  • 優れた止血能力を持ち、スムーズな外科手術に貢献。マイクロ波外科手術用エネルギーデバイス「アクロサージ」世界で初めて製品化

<https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000017014.html>

  • 次世代の外科手術用マイクロ波メス「アクロサージ」が来年1月にも発売

<https://medfit-gl.jp/me_job/column/20161012.php?view=pc>

Pocket

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

ABOUTこの記事をかいた人

1969年生まれの49歳、会社員。自称「お困りごと解決士」。会社では多くの人がいろんな事に困っています。プロジェクトが進まない、トラブル対応で早急に対策をとらないといけない、業務効率をあげたい、新しいシステムを入れたい、売上をあげたい、コストダウンしたい、など。そんな時、必ず頼りになるのが私です(笑) 元々は核燃料のエンジニア。30歳を過ぎてから社内で様々なプロジェクトをリード、コーチングするプロジェクト屋になる。多くの人を巻き込みながらプロジェクトをリードすることが得意です。オペレーショナル・エクセレンス(Operational Excellence、略してOpEx)、プロジェクト・マネジメント(Project Management)、チェンジマネジメント(Change Management)のエキスパート。どうすれば皆さんのお困りごとを解決できるのか?日々学んでいることをまとめています!