【治療イノベーション】世界を救った日本の薬~画期的新薬はいかにして生まれたのか?~

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世界を救った日本の薬

世界を救った日本の薬 画期的新薬はいかにして生まれたのか? (塚崎朝子 著)

それぞれの薬はいずれも日本人がその創薬に深く関わった物です。

それぞれの薬について、研究者の個人史、疾患と治療の歴史、創薬に至ったきっかけから開発競争、市販に至るまでの経緯などが書かれています。

面白いのは研究者インタビューです。

気になった薬をまとめてみました。


3億人を失明から救った画期的新薬でノーベル賞~

イベルメクチン(経口駆虫薬、毛包虫症治療薬)

大村 智:北里大学

1974年に、静岡県伊東市川奈のゴルフ場近くで採取された土から新種の放線菌(OS-3153)を発見したのが世紀の画期的新薬につながりました。

放線菌は、主として土壌中に生息する原核微生物で、生態系においては、落葉などの有機物の分解などに大きな役割を担っているそうです。

このような土壌物由来の有機化合物の探索が創薬の王道、というのは初めて知りました。

それではイベルメクチンはどんな病気を治療したのでしょうか?

オンコセルカ症(河川盲目症)という、線虫への感染によって発症するアフリカなどの熱帯の風土病です。皮膚と目に障害を起こし、皮膚では猛烈な痒みを生じ、目に入ると視力低下から失明にまで至ります。

熱帯アフリカを中心に世界で35か国に蔓延し、毎年1800万人が感染、77万人が失明していました

この恐ろしい病気がイベルメクチンで2025年には撲滅、というのだから驚きです。


大村先生インタビュー

  • 自然はアートで秩序立っている。美しいと感じる心が「発見」を生む。
  • メルクとの共同研究が奏功した。
  • メルクだけでは絶対見つからなかったはずだし、私だけでも絶対薬にならなかった。
  • 研究室のシステムを変えたことが奏功した。

ある活性の物をみつけようとしても、なかなか目当ての物は引っかかってこない。先に新規の化合物を見つけ出してから活性を調べるという逆転の発想がよかった。

今でも袋を持って歩き、土を採取して新しい化合物を探索している。

  • 人まねをして失敗しても何も残らないから、独自のことをやってみろ。自分が何か持っていれば、必ず物質を引き寄せることができる。
  • 人のために何かしてみたいと言っていれば、できるようになる。そのためには、感性や想像力をしっかり身につけなくてはいけない。

新型インフルエンザとエボラ対策の「切り札」を開発

ファビピラビル(アビガン):抗ウィルス薬

白木 公康:富山大学

数年前に”エボラに効く”ということで有名になった薬です。

富士フィルムが開発した、と思っていましたが、白木先生と富山化学工業が開発した薬です。富士フィルムが富山化学工業を買収したため、富士フィルムの名前が世に出ました。

もともとはインフルエンザ薬として開発されたものですが、季節性インフルエンザへの適応はなく、新型インフルエンザが発生し、対策に使用すると国が判断した場合にみ生産・使用できるという条件付き承認にとどまりました

動物実験の結果から、インフルエンザ感染の切り札になることが期待されたので、落胆の方が大きい承認条件となりました。

治験では解熱作用が主要評価項目だったので、有効性が評価されないくということも要因だったようです。

「エボラに効く」ということで有名になり、その効果が認知されたのは非常によかったです。


免疫治療に革命を生む免疫チェックポイント阻害薬

ニボルマブ(オプジーボ):がん免疫治療薬

本庶 佑:京都大学

免疫細胞がアポトーシス(一部の細胞があらかじめ遺伝子で決められたメカニズムによって,なかば自殺的に脱落死する現象)を起こす分子を探索中に最初に見つかった分子、PD-1は、活性化した免疫細胞に広く発現し、”免疫のブレーキ役”(免疫チェックポイント分子)だと解明されました。

PD-1に特異的に結合する物質(リガンド)も相次いで発見。がん細胞表面のリガンドPD-L1がPD-1受容体と結合するとがん細胞への攻撃力を失いますこの結合を阻害することでブレーキをはずし、免疫細胞ががん細胞を攻撃する仕組みが”免疫チェックポイント阻害薬”です。

2014年に小野薬品工業から世界に先駆けて日本で発売されました。

本庶先生インタビュー

  • 日本の製薬企業は多すぎる。世界に伍する5社もあれば十分。
  • 高価な薬だが、従来の”毒を以て毒を制す”抗がん剤と比べて大きな特徴が3つある
  1. がん種を問わない
  2. 細胞毒性による副作用が少ない
  3. 末期でも効き始めたらずっと効き、再投与可能
  • 一つの医療費を取りあげて高い・安いと論じることは疑問例えば、人工透析は一人に年間約500万かかり、患者の自己負担はなくても公的医療費の負担は大きい。価格が適正かどうかについては総合的に議論しなくてはならない。
  • 日本の創薬の問題点は2点
  1. アカデミアからのシーズは色々出てきているが、産業化する力が弱い。
  2. 日本の医療イノベーションは”片道切符”。産業化によって製薬企業が利益を挙げたのであれば必ずアカデミアに還元しなくていけない。

肺がん治療の”魔法の弾丸”となる分子標的治療薬

クリゾチニブ:非小細胞肺がん治療薬

間野 博行:東京大学

がん細胞の発症や増殖などに関わる特異的な分子を標的として、それを狙い撃ちにする治療法は「分子標的治療」と言われています。

「良い薬を創るには良い標的を見つけること」

間野さんは、原因遺伝子(良い標的)を効率良く見つけるために、がん遺伝子の新たなスクリーニング法を確立しました。

間野先生インタビュー

  • 高価のある人だけに投与する分子標的治療薬は医療の無駄を省く
  • クリゾチニブの歴史的な迅速承認の要因は、EML4-ALKが標的としてずば抜けていたことに尽きる
  • ALK阻害薬の成功で、アカデミアと製薬企業がとても近づいたと感じる

世界唯一のスクリーニング法で開発したMEK阻害薬

トラメチニブ:悪性黒色腫および肺がん治療薬

酒井 敏行:京都府立医科大学

がん細胞の増殖を促すシグナル伝達経路(下図)の中でRB(網膜芽細胞腫の原因遺伝子:Retinoblastoma Gene)という遺伝子に着目した抗がん剤です。

下流にあるRBはがん遺伝子の活性化により失活するが、上流のがん抑制遺伝子の失活によっても失活させられる。ほとんどの悪性腫瘍では最終的にRBが失活することから、RBこそががん領域の「萃点」(様々な物事の理が交差する地点)であり、RBの再活性化を狙ったものです。

トラメチニブは、MEKの機能を阻害することで、その下流のERKのリン酸化を防ぎ、最終的にRBを再活性化、するというものです。

ちょっと難しくて詳細は理解できません。

このトラメチニブは、皮膚がんの中でも最も悪性度が高いメラノーマに対して劇的な効果を発揮し、治験開始からわずか4年あまりでFDA承認という快挙を成し遂げた画期的な薬です。


腎臓を標的にした全く新しい糖尿病治療薬

カナグロフロジン(糖尿病治療薬)

野村純宏:田辺三菱製薬

既存薬はインスリン作用を増強させて、血糖降下を目指すものが主体。

これに対して、カナグロフロジンは腎臓を標的として、血中の糖を尿中に排泄させる仕組み。

「糖が血中で過剰であるならば、対外に捨てればいいのではないか?」という発想から生まれたもの。

野村さんの“考えて薬を創りたい”という考えも大変素晴らしいです。

野村先生インタビュー

  • 研究者をある程度自由にさせないと画期的な創薬は生まれない
  • カナグリフロジンの成功要因は、早めに化合物の系統を決めたこと。ヤンセン社はT-1095にこだわり過ぎて先へ進められなかった。私は、その後の技術の発展も柔軟に取り入れ、より早く、より良いものを見つければよいと、過去の栄光に固執しなかった
  • 日本でなかなか画期的な新薬が生まれないのは、製薬企業が導入品を売るだけという時代が長く続いた弊害もあるのではないか?最近の創薬の主流は標的タンパク質についての文献を見つけ、そこにはまる化合物をスクリーニングしていく、いわば他人頼み。“考えて薬はできないか?”という発想が重要。

日本発ブロックバスターの先駆け

ジルチアゼム塩酸塩(虚血性心疾患治療薬)

東京大学(国立医薬品食品衛生研究所名誉教授):長尾 拓

戦後、日本発で世界に評価された薬の先駆けは、74年に虚血性心疾患治療薬として発売されたカルシウム拮抗薬、ジルチアゼム塩酸線(ヘルベッサー)です。

今なおEBM(Evedence-based medicine)に耐える薬として、ロングセラーとなっています。


ペプチド探索で創薬につながる新規物質を発見

ボセンタン(肺高血圧治療薬)/ソボレキサント(睡眠薬)

筑波大学:柳沢 正史

柳沢先生インタビュー

発見した2つの新規物質が短期間で新薬に!

新たな生活活性ペプチドの探索と生理的役割の解明という点で両者は技術的に一貫しているが、実際に行ったことはかなり違う。

エドセリン(→ボセンタン)は、内皮由来の血管収縮因子があるだろうという仮説に基づいて見つけた物で、当初から薬になる見込みも高かった

オレキシン(→ソボレキサント)は、純粋に生化学的な探索の中から最初に見つかり、最も面白いものだった。


ペプチドって何?

ここで出てきた「ペプチド」。実は近くに「ペプチドリーム」という会社があって、何やら創薬のすごい会社ということは聞いているのですが、肝心の「ペプチド」が何なのか知りませんでした。

ということで「ペプチド」について調べてみました。

「ペプチド医薬品」が医療を変える

医薬品は分子量の大きさによって3つの種類があります。

種類と長所、短所を整理します。

これまでは主に低分子、高分子の医薬品は開発が進められてきました。

その中間に位置するペプチド医薬品は、低分子・高分子医薬品がそれぞれ抱える短所をともに克服できることが期待できることから、注目を集めています。

長所 短所
低分子医薬品
  • 開発費が安い
  • 飲み薬として普及しやすい
  • 分子量が小さいがゆえに体内の至るところに入っていくため、病巣を”狙い撃ち”しづらい
中分子医薬品

(ペプチド医薬品)

  • 標的のタンパク質に特異的に作用する
  • 開発費を低く抑えられる
n/a
高分子医薬品
  • 標的となるタンパク質に特異的に作用

して副作用が起こりづらい

  • 開発費が高くつく
  • 分子量が大きいために細胞膜を透過しづらい

引用元:http://www.nedo.go.jp/hyoukabu/articles/201804peptide/index.html

低分子医薬品、中分子医薬品、高分子医薬品は、主にアミノ酸、ペプチド、たんぱく質から作られます。この3つも比較整理しておきます。

長所 短所
アミノ酸

分子内にアミノ基(-NH2)とカルボキシル基(-COOH)をもつ化合物

  • 消化の必要がなく、とても吸収されやすい
  • 特有の機能性のあるアミノ酸がある
  • 静脈栄養剤や経腸栄養剤として利用できる
  • 単一のアミノ酸を過剰摂取すると急性毒性を現すことがある
  • 腸管の浸透圧を上げるため、大量に摂ると下痢をしやすい
  • タンパク質に比べて価格が高い
ペプチド

2~50程度のアミノ酸がペプチド結合したもの

  • タンパク質よりも吸収されやすい(長さが短いペプチドはアミノ酸と同等かそれ以上に吸収されやすいこともある)
  • 特有の機能性のあるペプチドがある
  • 経腸栄養剤として利用できる
  • タンパク質に比べて価格が高い
タンパク質

20 種類の L-アミノ酸がペプチド結合してできた化合物

  • 肉や魚、卵、大豆製品など、食品から簡単に補給できる
  • ペプチドやアミノ酸と比較すると価格が安く入手しやすい
  • 消化されないと吸収できない
  • アレルゲンとなることがある

まとめ:日本の創薬の問題点

先生のインタビューを整理してみて、日本の創薬の問題点が非常に気になりました。

  • アカデミアからのシーズは色々出てきているが、産業化する力が弱い。
  • 日本の医療イノベーションは”片道切符”。産業化によって製薬企業が利益を挙げたのであれば必ずアカデミアに還元しなくていけない。
  • 日本でなかなか画期的な新薬が生まれないのは、パターン化した開発(化合物スクリーニング)が多いため。考えることが必要。

「産業化する力」と「アカデミアへの還元」、この2点がポイントです。

アカデミアからシーズが出ても産業化できないと創薬は生まれません。また製品化が成功して利益をあげても、それがアカデミアに還元されないと、研究開発が衰退しシーズが出なくなります。

アカデミアと産業の連携とエコシステム」が必要です。

医療機器開発でも同じだな、と感じました。

は典型的な例だと思います。素晴らしいシーズですが、まだ産業化までの道のりは長いです。ファンドも必要だし、医療機器メーカーの協力が必要です。


参考資料

  • 創薬に新たな道を拓いたペプチド探索システム | NEDOプロジェクト実用化ドキュメント

http://www.nedo.go.jp/hyoukabu/articles/201804peptide/index.html

  • タンパク質とペプチドとアミノ酸の違い

https://www.healthy-pass.co.jp/blog/20160729/

  • ぺプチドリームHP

https://www.peptidream.com/

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ABOUTこの記事をかいた人

1969年生まれの49歳、会社員。自称「お困りごと解決士」。会社では多くの人がいろんな事に困っています。プロジェクトが進まない、トラブル対応で早急に対策をとらないといけない、業務効率をあげたい、新しいシステムを入れたい、売上をあげたい、コストダウンしたい、など。そんな時、必ず頼りになるのが私です(笑) 元々は核燃料のエンジニア。30歳を過ぎてから社内で様々なプロジェクトをリード、コーチングするプロジェクト屋になる。多くの人を巻き込みながらプロジェクトをリードすることが得意です。オペレーショナル・エクセレンス(Operational Excellence、略してOpEx)、プロジェクト・マネジメント(Project Management)、チェンジマネジメント(Change Management)のエキスパート。どうすれば皆さんのお困りごとを解決できるのか?日々学んでいることをまとめています!