【治療イノベーション】血液脳関門(BBB)を突破するデリバリーシステムの開発~グルコース濃度に応答して血中から脳内に薬剤を届けるナノマシン~

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血液脳関門(BBB)を突破するデリバリーシステムの開発

先日聞いた講演の話題です。

講演者は東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 の安楽泰隆 特任助教です。

血液脳関門(Blood-Brain Barrier: BBB)と呼ばれる生体内バリアを超えてナノマシンが届くという論文が最近ネイチャーコミュニケーションズに掲載されて、大きな話題になっています。

アルツハイマー病に代表される脳神経系疾患治療を困難にしている最大の障壁がBBBで、脳の活動に必須な栄養素を選択的に取り込む反面、薬剤の脳への送達を著しく制限しています(図1)。

アルツハイマー病の対症療法として臨床で用いられている低分子薬剤であるドネペジルであっても、脳への集積量は投与量の0.1%に満たないのが現状です。そのためBBBを突破する試みは、世界中で行われていて、下記記事にもまとめました。

図1 血液脳関門概念図 引用元 <https://www.jst.go.jp/pr/announce/20171019-5/index.html>


BBBを通過するナノマシンの仕組み

BBBを構築する脳血管内皮細胞には脳のエネルギー源であるグルコース(ブドウ糖)を輸送するためのグルコーストランスポーター1(GLUT1)が他のトランスポーターと比べ桁違いに多く存在しています。

これまで薬剤またはそのキャリアにグルコースを結合させて脳へ送達させようという試みが世界中でなされてきましたが、脳内に十分に送達させることはできませんでした


ナノマシンの構造

ナノマシンと呼んでいるのは、薬剤を包み込んだ高分子ミセルという分子の化合物のことです。

この化合物は、水に溶けやすい親水性のポリマーと、薬剤を結合させた水に溶けにくい疎水性のポリマーを水中に拡散することで作られます完成したこの微粒子は、内層は薬剤を内包した疎水性ポリマー、外層は親水性ポリマーの二層構造となった球状集合体になります」(下図参照)

引用元: http://emira-t.jp/ace/2557/

ナノマシンの開発の世界的権威 片岡一則先生(ナノ医療イノベーションセンターセンター長・東京大学名誉教授・東京大学政策ビジョン研究センター特任教授)がドラッグデリバリーシステム(Drug Delivery System: DDS)として開発したもので、今回はこのナノマシンを応用したものです。

生体への安全性が担保された高分子を構成分子とするナノ粒子の表層にグルコースを適切に導入し、脳血管内皮細胞に局在するGLUT1を的確に認識する直径30nmのナノマシンを構築しました(図2

引用元: https://www.jst.go.jp/pr/announce/20171019-5/index.html


グルコースを外部刺激として与えることでBBB通過率を上げる

GLUT1の脳血管内皮細胞における細胞内の局在部位が血糖値の変化に伴って変わることに着目し、グルコースを外部刺激として与えるという生物学的手法を導入することにより、このナノマシンがスムーズにBBBを通過できるのではないか?というのがこのシステムのポイントです。

ナノマシンを空腹状態のマウスに静脈投与し、その30分後にグルコース溶液を投与することで、最大で投与量の約6%が脳へ集積することが確認されました。これはグルコース非結合ナノマシンと比べ、100倍以上高い集積量となります(図3)。

一方、食事を自由にさせたマウスでは、ナノマシンを注射しても脳にほとんど集積しませんでした。また脳内でのナノマシンの挙動を顕微鏡で観察したところ、グルコースに応答してBBBを通過するスマートな機能を有していることをリアルタイムに確認しました(図3)。

図3 外部刺激(グルコース投与)に応答して脳へ集積するナノマシン

引用元: https://www.jst.go.jp/pr/announce/20171019-5/index.html

さらに脳の深部に至るまで一様に分布することを確認し、またBBBを通過したナノマシンは、脳内の神経細胞へと取り込まれることを明らかにしました。


あらゆる薬剤を運ぶことが可能

今回のナノマシンのすごいところは、中に包含する薬剤の制限がなく、どんな薬剤でも可能だという点です。

実際に安楽先生に質問してみました。ナノノマシンの直径が30nmなので、その大きさが制約となるが、高分子でも10nm以下なので、ほぼ制約はないとのこと。また膨大な実験データ、データベースからも特に制約はなく、あらゆる薬剤を封入することが可能とのことです。

これはすごいです。

これまでの脳神経系疾患の治療薬の開発では、高分子医薬はBBBを通過できず、低分子薬剤でもBBBを効率的に通過できない場合が少なくないことから、十分な治療効果が得られず、治療薬開発の大きな制限になっていました。ナノマシンは、あらゆる薬剤のBBB通過能を著しく高め、抗体医薬や核酸医薬などのこれからの先端医療を担うバイオ医薬の薬剤を封入することを可能にします。

脳神経系疾患の治療薬の開発に大きなイノベーションとして、計り知れないインパクトを学術分野、医療並びに社会にもたらすことが期待できます!


参考資料

  • 体内に病院ができる!?ナノテクがもたらすがん治療の大革命

<http://emira-t.jp/ace/2557/>

  • 実用化に近づいたナノDDS

https://www.jst.go.jp/first/images/stories/30/09/NewsLetterVol2_j.pdf

  • ナノマシンが切り拓く 革新的な脳神経疾患治療

https://iconm.kawasaki-net.ne.jp/pdf/NanoSkyvol4.pdf

  • グルコース濃度に応答して血中から脳内に薬剤を届けるナノマシンを開発

<https://www.jst.go.jp/pr/announce/20171019-5/index.html>

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ABOUTこの記事をかいた人

1969年生まれの49歳、会社員。自称「お困りごと解決士」。会社では多くの人がいろんな事に困っています。プロジェクトが進まない、トラブル対応で早急に対策をとらないといけない、業務効率をあげたい、新しいシステムを入れたい、売上をあげたい、コストダウンしたい、など。そんな時、必ず頼りになるのが私です(笑) 元々は核燃料のエンジニア。30歳を過ぎてから社内で様々なプロジェクトをリード、コーチングするプロジェクト屋になる。多くの人を巻き込みながらプロジェクトをリードすることが得意です。オペレーショナル・エクセレンス(Operational Excellence、略してOpEx)、プロジェクト・マネジメント(Project Management)、チェンジマネジメント(Change Management)のエキスパート。どうすれば皆さんのお困りごとを解決できるのか?日々学んでいることをまとめています!