貼るだけで血糖コントロール 世界初のマイクロニードル型の人工膵臓
2018年12月に論文が発表され、最近ニュースでも話題になっている人工膵臓です。
東京医科歯科大学などが、世界初の「エレクトロニクス制御フリー」「タンパク質フリー」「ナノ粒子フリー」なアプローチによる人工膵臓デバイスを開発し、糖尿病モデルマウスでの実証実験に成功したと発表しました。
貼るだけで血糖値を自動的に検知し、それに応じてインスリン供給を調整する機能があるものです。この人工膵臓により良好な血糖コントロールを得られることが動物実験で確かめられました。
1週間以上の持続性 と血糖値応答性を両立した世界初のプロトタイプです。
この研究をリードしているのは、東京医科歯大学 生体材料工学研究所バイオエレ クトロニス分野の松元亮 准教授ですが、偶然にも、ここ1週間で2回も松元先生の話を聞く機会がありました。
2回聞いて、この人工膵臓の凄さが分かってきたので、その内容をご紹介します。

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他の人工膵臓との違い
この貼るだけ人工膵臓の特徴は下記です。
- 「エレクトロニクス制御フリー」、「タンパク質フリー」、「ナノ粒子フリー」な仕組み
- 一週間以上の持続性と血糖値応答性を世界を初めて両立
- マイクロニードル化による低侵襲性、安定性、経済性、審美性を格段に改善
一番大きな特徴は、インスリン放出の駆動力です。
現在は、エレクトロニクスで強制的にコントロールする「インスリンポンプ」が主流です。
ところが、今回のソリューションでは、エレクトロニクスは使用せず、自発的な応答でインスリンの放出量が制御できるのが最大の特徴です。
また、タンパク質を基材とする人工膵臓も研究されていますが、タンパク質変性に伴う不安定や毒性が課題であり、未だ実用化には至っていない状況です。
自発的応答の動作原理
自発的応答を可能にしたのが、グルコース濃度に応答するボロン酸ゲルです。
今回 のプロトタイプでは、マイクロニードルの骨格として多孔性のフィブローインを用い、その表面にボロン酸ゲルを融合させています。
下図(B)のように、グルコース濃度が低い時(正常血糖値)は、マイクロニードルの表面でボロン酸ゲルが「スキン層」と呼ばれるバリアを形成します。そのためインスリンは放出されません。
ところがグルコース濃度が上昇し、高血糖状態になると、ボロン酸ゲルが皮内のグルコースと応答して親水化することでバリアが消失し、インスリンが放出されます。
ゲル表面に「スキン層」が濃度依存的、可逆的に形成されることが最大のポイントで、これが血糖値に応じたインスリン放出の自立的制御を可能にしています。

引用元:https://www.kanagawa-iri.jp/wp/wp-content/uploads/20190116_release.pdf
またこのボロン酸ゲルは、完全合成材料のため、安定性、低免疫原性、安全性に優れていることも大きなメリットです。
そのため
- 貼るだけ500円玉サイズ
- 最大一週間連続装用可能
- 月3万円程度の低価格
という驚きのスペックが実現可能となります。
これまで米ノースカロライナ大学などが人工膵臓の開発に成功しているが、効果は数時間しか持続しませんでした。
今回の研究で開発した技術は、糖尿病患者の生活の質改善の観点で求められる「週単位の持続性」ニーズに応えるものです。
まさにインスリンによる血糖コントロールの革新的治療技術です。
参考資料
- 貼るだけで血糖コントロール 世界初のマイクロニードル型の人工膵臓
http://www.dm-net.co.jp/calendar/sp/2019/028844.php
- マイクロニードル型 「貼るだけ 貼るだけ 」人工膵臓
https://www.kanagawa-iri.jp/wp/wp-content/uploads/20190116_release.pdf
- Microneedle-Array Patch Fabricated with Enzyme-Free Polymeric Components Capable of a Weekly On-Demand Insulin Delivery
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/adfm.201807369
糖尿病関連の参考資料・参考記事
- 【治療イノベーション】糖尿病に対するインスリンポンプ療法は自動運転の進化と似ている
- インスリンポンプ療法と自動運転、似ている進化
https://tech.nikkeibp.co.jp/dm/atcl/feature/15/327442/091800272/?ST=SP-health&n_cid=nbpnxt_mled_ndh
- 1型糖尿病の治療(CSIIとSAP)
http://www.nagasaki-mc.jp/cgiimg/1501725137233190.pdf
- 糖尿病ネットワーク
http://www.dm-net.co.jp/calendar/2017/027369.php
- 糖尿病患者がいつでも採血なしに血糖値を測定できるという画期的な新製品と保険制度の問題点
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