【ヘルスケアビジネスモデル7】ゼロ円の衝撃!数百万円の電子カルテを無料にして医療を変える「電子カルテZERO」

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ゼロ円の衝撃!無料電子カルテ「カルテZERO」

本日は、2016年12月、きりんカルテシステムからサービス提供が開始されたクラウド型の電子カルテ「カルテZERO」のビジネスモデルを考えます。

大手メーカーの電子カルテだと導入費用350万、保守料 年間40万程度といわれている電子カルテを、何と無料で提供するサービスです。1年も満たない今年10月時点で500以上のクリニックが導入したというユニークなビジネスモデルです。


電子カルテが普及しない理由は導入・保守にかかわる高コスト

一般診療所(病床19床以下)101,099施設(平成28年1月末現在)のうち、電子カルテを導入している施設は全体の約30%にとどまっています。

電子カルテが普及しない最大の理由の1つが、保守コストが高く、投資対効果に合わないと言った点があげられます。大手電子カルテメーカーの価格帯は350万円前後で、保守料は年間40万円程度と高額です。


カルテZEROの狙い

最近、低価格のクラウド型電子カルテシステムも登場していますが、カルテZEROはクリニック経営に大きく貢献する完全無料のクラウド型電子カルテです。

『完全無料』のビジネスモデルで、一般診療所の経営コストを劇的に下げることを目指しています。

初期導入費はもとより、登録患者数が増えても機能追加になっても月額利用料や保守費はすべて無料です。名前にZEROをつけているあたり、恒久的に無償で提供するビジネスモデルであることを強く示していますね。

「きりんカルテシステ株式会社ホームページ」より引用


カルテZEROの機能

電子カルテとしての機能を十分備えており、レセコン機能(診療報酬明細書の作成)や予約システム、アプリとも連携しています。

レセコン機能においては、日医標準レセプトソフトORCAと連携しているため、診療報酬改定時もクリニックによる改定対応の必要がなく、常に最新の情報でレセプト(診療報酬明細書)を作成することができます。レセコンに要する初期導入費や保守費、診療報酬改定への対応といった追加費用も不要となります。

電子カルテ、レセコン、受付や予約システムなど病院運営に必要な基本機能に加え、訪問看護指示書などの帳票作成をはじめ在宅医療機能も無料に含まれます。またクラウド型のためPCとインターネット環境があればすぐにご利用いただけるとともに、外出先でも電子カルテの入力・閲覧が可能です。持ち運びに便利な Microsoft Surface Pro などを使えば院外も院内も1台で済みます。

「カルテZERO」主な機能は下記6点です。

  • 完全無料で利用可能

電子カルテのみならず、外来予約・受付・レセコン機能など全ての機能が完全無料でご利用頂けます。どれだけ利用しても、患者さんが増えても無料のままとなります。

  • PC・ノートPC・タブレットなどマルチデバイスに対応

インターネット環境があれば、お手持ちのPC・ノートPC・タブレットなどで利用ができます。Macでも利用が可能です。

  • 日医標準レセプトソフトORCAと連携

ORCAと連携する為、情報は既に最新に保つことができ、月末のレセプト処理の手間を軽減できます。

  • 診療毎に病名チェックが可能

診察毎に病名チェックを行う為、レセプト病名チェックの必要がなく、また病名の付け忘れもありません。

  • 患者の年齢・体重から適正な薬剤料を算出

小児科処方において大事な薬剤料。患者の年齢・体重から自動的に算出し、処方登録する事ができます。

  • 予約システム搭載

患者様向け専用アプリ(無料)で、患者様自身で予約を行って頂くので、電話対応が不要になります。


無料の秘密

それでは、何故カルテを無償で提供できるのでしょうか?その秘密は付随するサービスにより収益を得るからです。

以下の2つのサービスを事業の柱とし、『カルテZERO』の完全無料化を可能にしています。

  • クリニック経営支援サービス『カルテFRM』
  • 薬剤情報提供サービス『カルテMR』

『カルテFRM』『カルテMR』は現在特許を出願中とのことです。

更に将来は、もう1つの収益としてビックデータの活用も検討しています。

  • 「きりんZERO」の普及で取得したカルテデータを医療ビッグデータとして活用(将来)

クリニック経営支援サービス『カルテFRM』

それでは、2つの収益源となるサービスについて整理します。

『カルテFRM』は診療報酬の当月中の立て替え払いを軸としたクリニック経営支援サービスです。

診療報酬のキャッシュフローを改善する「カルテFRM」のフローを下図に示します。

「きりんカルテシステ株式会社ホームページ」より引用

診療所がレセプトを支払基金に請求して入金されるまで、通常45日ほどかかります。『カルテFRM』は、『カルテZERO』の診療データを活用し、レセプト請求前に当月中に立替払いを行うことで、診療所のキャッシュフローを改善させます。これは業界初のサービスとのこと。

利用にあたり、手数料として診療報酬の2%を対価として受け取っています。

薬剤情報提供サービス『カルテMR』

『カルテMR』は電子カルテから新薬やジェネリック医薬品などの薬剤情報へのアクセスを可能にする薬剤情報提供サービスです。情報掲載料として製薬会社から収益を得る仕組みでクリニック側の費用発生はありません。

MRのかわりに薬剤情報を提供し、情報掲載料として製薬会社から収益を得るという、という点では、エムスリーの「MR君」と同じです。

MR君と異なるのは、電子カルテと薬剤情報がつながっている点です。カルテMRでは、医師の処方時に電子カルテ上に薬剤情報を提供する際に、新薬やジェネリック医薬品などの情報を掲載します。

MR君と違って、クリニックの医師は、薬剤情報を自分から積極的にとりにいかなくても、処方する内容から薬剤情報が入手できます。忙しいクリニックの医師に対し最新情報の効率的な入手を実現することがメリットです。

製薬会社のメリットは、MR君と同じで、医師に薬剤情報を効率的に届ける、すなわちMR業務の効率化です。その対価として情報掲載料を支払います。

カルテデータを医療ビッグデータとして活用

将来の展望です。「きりんZERO」が広く普及するとともに、多くの患者さんの医療情報が集まることになります。それを個人情報が特定できない医療ビッグデータとして取り扱い、解析することで、新たなビジネスモデルを製薬会社や保険会社と協業していく予定とのことです。


カルテZEROのビジネスモデルキャンバス

上記の情報をもとにカルテZEROのビジネスモデルキャンバスを描きました。

ポイントは、

クリニックの経営コストを下げることを目的に無料電子カルテを軸とした新しいプラットフォームを構築する

ビジネスモデルだと考えます。

無料の電子カルテは大きな軸ですが、それは顧客を囲い込む手段でもあります。

本当の狙いは、無料電子カルテによる経営コストの削減に加えて、電子カルテと連動して

  • 月末レセプト処理の手間軽減
  • 予約システムによる窓口業務効率化

など、幅広くクリニックの経営コストを下げるサービスを提供していくことだと考えられます。

そのために、顧客の囲い込み、と軸となる電子カルテの一気の普及を狙って電子カルテを無償化することを狙ったのではないでしょうか?

そして電子カルテを無償化する仕組みとして、カルテFRMやカルテMRなどのサービスにより収益を得るビジネスモデルを構築したと考えました。ビジネスモデルキャンバスの右下のフロー図がこのビジネスモデルをまとめたものです。

収益、利益については残念ながら詳しい数字は公開されていないようですが、H29年度3月期の数字をキャンバスのコスト構造のところにまとめました。

単位も不明でしたが、H29年度の段階では、営業利益、経常利益ともにマイナスです。おそらくこのビジネスモデルでは変動費(コスト)はソフトの開発くらいなので少ないはずです。今後利用者が増えればプラスに転じると考えられます。今後の収益と利益の推移が楽しみなビジネスです。


参考資料

  • きりんカルテシステ株式会社ホームページ
  • 完全無料だけではない!クラウド型電子カルテ「カルテZERO」急成長の理由
  • ネットプリント業界NO.1が電子カルテに参入 その事業モデルとは
  • DIGITAL INNOVATORS デジタル・イノベーターズ – 完全無料の電子カルテ
  • ~クリニックの運用コストを劇的に下げる~完全無料クラウド型電子カルテ「きりんZERO」正式版をリリース レセコン機能・予約システムなどクリニック運営に必要なシステムを搭載

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1969年生まれの50歳、会社員。自称「お困りごと解決士」。会社では多くの人がいろんな事に困っています。プロジェクトが進まない、トラブル対応で早急に対策をとらないといけない、業務効率をあげたい、新しいシステムを入れたい、売上をあげたい、コストダウンしたい、など。そんな時、必ず頼りになるのが私です(笑) 元々は核燃料のエンジニア。30歳を過ぎてから社内で様々なプロジェクトをリード、コーチングするプロジェクト屋になる。多くの人を巻き込みながらプロジェクトをリードすることが得意です。オペレーショナル・エクセレンス(Operational Excellence、略してOpEx)、プロジェクト・マネジメント(Project Management)、チェンジマネジメント(Change Management)のエキスパート。どうすれば皆さんのお困りごとを解決できるのか?日々学んでいることをまとめています!