【ヘルスケアビジネスモデル8】血球計測や尿検査の分野で世界トップシェアを握るシスメックスの3次元ビジネスモデル

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シスメックスとは?

病気の診断や健康診断に欠かせない検体検査。血球計測や尿検査の分野で世界トップシェアを握るのが神戸市に本社を置くシスメックスです。

日本で鍛えたものづくり技術を強みに輸出先を190カ国・地域以上に広げ、試薬とサービスでも安定した利益を上げてきた。一人ひとりに適した「個別化医療」にも領域を広げ、革新に挑み続けるシスメックスのビジネスモデルを考えます。

血球や尿検査で首位 新入社員の2割は外国出身者

40カ国・地域以上に海外子会社を持ち、外国出身者が新入社員の2割を占めます。

1968年に拡声器メーカーの東亜特殊電機(現TOA)が医療機器部門を独立させたのがルーツで、86年に創業者の娘婿で銀行員だった家次恒氏が取締役として入社し、大きな飛躍を遂げています。

血球の計数検査、尿検査、血液の凝固検査で世界シェア首位です。


15期連続増収

2012年までですが、売上の推移を下記に示します。その後2016年3月期まで何と15期連続増収を達成しています。残念ながら2017年3月期は前年比97.9%と減益になりましたが、売上1,410億円、営業利益357億を達成しています。何ともすごい成長です。

引用元:シスメックス会社紹介


3次元ビジネスモデル

シスメックスの強みである収益モデルは

検査機器×試薬×問題解決提供

の3つの軸の掛け算で表せる3次元のビジネスモデルです。下図はシスメックスの強みをまとめたものですが、

収益×試薬×サービス&サポート

という3つの軸になっています。

問題解決提供のためのサービス&サポートという位置づけで、サービス&サポートを問題解決提供と置き換えると

検査機器×試薬×問題解決提供

という3次元のビジネスモデルになります。

IR資料より引用


ビジネスモデルの変化:検査機器だけでなく新たな価値の提供

それでは3次元ビジネスモデルについて整理していきます。元々検査機器を売るビジネスだったので、2つ目の試薬、と3つ目のサービス&サポートによる問題解決提供、についてまとめます。

試薬をセットして検査結果を売るビジネスへ

まず最初は、2つ目の「試薬」です。

元々シスメックスは血液の分析装置を扱っていて、1980年くらいまでは主に機器を売るビジネスをしていました。

社長の家次恒氏の言葉です。

1980年半ばから、高齢化に伴う医療コスト削減の必要性、また一方では、血液に直接触れる危険性が認識され始め、1990年くらいから検査室のオートメーション化(自動化)をスタートさせたんです。すなわち、血液検体を一旦セットすれば、血液に触れることなく自動で検査が完了する。当時、私が責任者としてこのシステムを立ち上げましたが、生産性や安全性を高めるとか、機械を売るだけではない違う価値を提供しようとしたのがきっかけでした。

これが機器と試薬をパッケージで扱うモデルへの転換のスタートです。

現在でも、検査機器メーカーと試薬メーカーが、分かれているケースもあるが、検査結果に疑問が生じたときに、どちらに問題があるのか原因の特定が難しい

我々は検査の結果を売っている、検査結果を保証することが大事だ」という考えのもと両方をパッケージで販売するモデルへと転換した。

両方がパッケージなら、責任の所在は明らかですね。

こうして試薬にも出ていったのだが、これによって機器が売れれば試薬も売れる、機器の販売が不調なときでも、消耗品である試薬が業績を支えるというビジネスモデルが誕生しました。

米ゼロックスやいまのキヤノンなどが、コピー機を販売して、トナーで儲けるというビジネスモデルに似ています。


IoTを活用したサービス&サポートとの充実と問題解決提供

3つ目は、「サービス&サポートによる問題解決提供」です。

日本では医療費抑制の中で、病院側は検査の生産性、効率性をあげることが、経営的な課題となっている。

技術開発を進めて検査を自動化し、それをネットワーク化することで、安コストで質の高いサービスを提供し、顧客にソリューション(問題解決)を提案する。

シスメックスからみれば、試薬で収益をあげ、サービスで確実に収益をあげる。ゼロックス型ビジネスモデルは、シスメックス型に進化しています。

進化の具体的な内容は下記です。

ITを使って、全ての機械にネットワークの性能を埋め込んでサービス&サポートに利用するものです。

サービスのコンセプト(基本概念)は、機械がトラブルを起こしている時間(ダウンタイム)をどれだけ短くするか、要はどれだけ早く復帰するかです。

人を送っていては間に合わない。やはり、ネットワークによってトラブルの兆候を事前に察知することでダウンタイムを最小限にする。

シスメックス流のいわゆるSNCS(シスメックス・ネットワーク・コミュニケーション・システム)※を構築したことがポイントです。

※SNCS:お客様の分析装置と、シスメックス・テクニカルサポートセンターをインターネットでオンライン化することにより、リアルタイムの外部精度管理・装置状態の自動監視や、Webによる情報提供を行うサービス。(出典:シスメックス用語集)

SNCSの概要

SNCSの概要がよく分かる記事を紹介します。

引用元:血液検査でお馴染みのシスメックスが作り上げた“仕組みビジネス”の凄み

シスメックスが誇るカスタマーサポートセンター

サポートセンターは、日本では24時間365日体制で、顧客に対応している。同センターは顧客の検査機器とオンラインで結ばれており、常に機器の状態が監視されている。これがSNCS(シスメックス・ネットワーク・コミュニケーション・システム)だ。

現在、全世界で4000台以上の機器と結ばれている。

顧客から電話で問い合わせが入った場合は、まず専任のオペレータが対応するが、内容によって技術的なものであればスペシャリストに、学術的な問い合わせであれば、学術担当者に振り分ける。専門家が対応できることが特徴である。現在、1日当たり約400件の問い合わせがあり、そのうち約60%は電話で問題が解決するという。

サービス体制はそれにとどまらない。部品交換など、どうしても人が出向く必要があるケースに備えて、フィールド・エンジニアも配置されている。これまたリアルタイムで、エンジニアがどこにいて、何をしているかを把握できるようになっている。 

家次社長が笑う。「最初、あれをつくったときには、みなさんにいろいろ言われました。衝撃的でね。さぼれないじゃないかって」。もちろん狙いは労務管理の強化でない。顧客サービスの向上のためだ。「日本なら離島を除けば、2時間以内でお客さんのところへ行ける」(家次社長)。

顧客サポートやサービスへのこだわり

どうしてここまで、顧客サポートやサービスにこだわるのか。

一般の民生用機器ならば、故障してから修理をしても大きな支障はないが、シスメックスが扱っているのは、医療用の検査機器。

検査の結果が不正確ならば、誤診にもつながりかねない。

だから「機器はいつもベストの状態にしておかないといけない」(家次社長)という強い思いがある。

アフターサービスではなくビフォーサービス

この考えはすごいです。

ITを活用し、ネットワークでつながることによって、顧客データや利用履歴のデータが蓄積されていきます。

「機器の状態がおかしいと、うちのサービスがお客様のところへ行く。故障が起こっていなくてもね。アフターサービスでなく、いかにビフォーサービスを提供していくかが大事」と、家次社長は続ける。


シスメックスのビジネスモデルキャンバス

これまでの情報をもとにビジネスモデルキャンバスを描きました。

収益モデルは、上にまとめたように、

  • 検査機器
  • 試薬
  • サービス&サポートを活用した問題解決提供

3軸モデルです。

試薬とサービス&サポートの売上比率の詳細データはありませんが、下記IR資料によると徐々に試薬とサービス&サポートの比率を増やし、現在では売上高の6割を超えています。

IR資料より引用

このモデルは手術支援ロボットdaVinciと同じですね。

daVinciでは、売上高に占めるシステム売上比(シスメックスの場合は機器の売上に相当)を創業以来10年以上の推移をまとめています。現在は30%がシステム売上比、残りの70%が消耗品&サービスの売上になります。

シスメックスの試薬とサービス&サポートの売上比6割に近いです。売上比の年度推移も同じような推移を辿っているのではないかと推測します。

お金のブロックパズル

お金のブロックパズルをコスト構造のところにまとめました。

売上は約2,500億、営業利益は517億と売上比25%を超える高い利益率です。

また、高い技術力が強みの1つなので、それを生み出すためにR&D費の対売上比率は6.2%と高くなっています。

全体的に、daVinciのブロックパズルと似ています

シスメックスの強みの1つは、「サービス&サポートを活用した問題解決提供」で、そのドライバーがSNCS(シスメックス・ネットワーク・コミュニケーション・システム)です。チャネル、主要活動、リソースなど複数の要素にSNCSが出てくることから、このシステムの重要さが分かります。

また徹底的な顧客視点、がシスメックスの強みを支える基本的な企業理念だと感じました。


手術支援ロボット市場への参入

先ほど手術支援ロボットdaVinciとの共通性を書きましたが、実はシスメックスは川崎重工と組んで、メディカロイドという会社を作り、手術支援ロボット市場への進出を目指しています

「株式会社メディカロイドは、ロボット技術を保有する川崎重工業株式会社と、医療用検査機器の技術を保有し、医療業界に幅広いネットワークを持つシスメックス株式会社の両社出資により誕生しました。社名の語源は、Medical + Androidすなわち医療用ロボットです」

引用元:メディカロイド株式会社ホームページ

手術支援ロボットこそ、SNCS(シスメックス・ネットワーク・コミュニケーション・システム)をベースに「サービス&サポートを活用した問題解決提供」が効果的なビジネスだと思います。この点では、daVinciを凌ぐ可能性もあり、非常に楽しみです。


参考資料

  • シスメックス株式会社 ホームページ
  • 日本経済新聞記事2017/9/22 患者別 医療革新の芽 検体検査のシスメックス、次の柱に
  • 血液検査でお馴染みのシスメックスが作り上げた“仕組みビジネス”の凄み
  • シスメックス会社紹介

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ABOUTこの記事をかいた人

1969年生まれの50歳、会社員。自称「お困りごと解決士」。会社では多くの人がいろんな事に困っています。プロジェクトが進まない、トラブル対応で早急に対策をとらないといけない、業務効率をあげたい、新しいシステムを入れたい、売上をあげたい、コストダウンしたい、など。そんな時、必ず頼りになるのが私です(笑) 元々は核燃料のエンジニア。30歳を過ぎてから社内で様々なプロジェクトをリード、コーチングするプロジェクト屋になる。多くの人を巻き込みながらプロジェクトをリードすることが得意です。オペレーショナル・エクセレンス(Operational Excellence、略してOpEx)、プロジェクト・マネジメント(Project Management)、チェンジマネジメント(Change Management)のエキスパート。どうすれば皆さんのお困りごとを解決できるのか?日々学んでいることをまとめています!