「アジア太平洋高齢者ケア・イノベーション・アワード」で最優秀賞を受賞したサービス付き高齢者住宅(サ高住)銀木犀

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何故、鉄鋼会社社長がサービス付き高齢者住宅を運営するのか?

の仕掛人、シルバーウッド(東京都港区)の下河原忠道さんは、元々は鉄鋼会社社長で薄板軽量形鋼材を使った建築工法『スチールパネル工法』の開発者です。

その後、高齢者住宅の運営、そして「認知症」に対するVRを用いた啓蒙活動、と次々にイノベーションを起こしているすごい人です。

6か国の高齢者住宅を視察から「最後まで自分らしく暮らせる場所」が必要ということに気づく

『スチールパネル工法』の営業活動のなかで携わった高齢者向け賃貸住宅が人生を変える転機。

今後この分野はこれからもっとニーズが増えると確信、興味を持って、そこから仕事が休みの度に高齢者向けの住宅や施設の視察に回る。

半年を費やしてデンマーク、アメリカ、フランス、韓国など海外6カ国の高齢者住宅のあり方を視察して、2つのことに気付かされたそうです。

一つは、日本に必要なのは介護施設ではなく「住宅」であること。もう一つは、無理に延命治療をせず自然に亡くなるのが世界のスタンダードであることです。

第三者が介入して生存期間を伸ばすのはエゴでしかありません。デンマークでは死期が近づくと、『プライエボーリ』という介護住宅に移るのですが、ここは終の棲家でありながら自立した生活を送ることを前提としています。だから、とにかくお年寄りがイキイキと暮らしている。そこに一つの答えがあると思いました」

こうしてたどり着いたのが、「脱・お世話型介護~最後まで自分らしく暮らせる場所の提供~」です。


生きがいを与える高齢者住宅~内装はまるでカフェ、そして入居者が作った駄菓子屋が玄関先に~

ユニークな運営を行う高齢者向け住宅「銀木犀」では、他の高齢者向け住宅では敬遠されることも「自分らしく暮らせる場所の提供」ということで導入されています

例えば下記です。

  • 床はヒノキの無垢材を使っているため、施設内に木のいい香りが漂う

一般的には「滑りやすいから」とまず採用されない

  • 観葉植物や生花が置かれている

「認知症の利用者が葉っぱを食べてしまわないように」とかいって、余計なものは置かない

「リスクを完璧に排除してしまったら、不自然で人工的な空間になります。入居者の自主性も奪いかねない。うちでは、少々危なくても、歩く力がある人には、歩いてもらいますし、配膳や洗濯等、自分でできることは何でもしてもらいます。施設に入った途端、移動は全部車椅子、食事もトイレも何もかも上げ膳据え膳の「お世話」をされていたら、一気にボケますよ。大切なのは、できることを取り上げないことだと思います。」

これ以外にも、最後まで自分らしく暮らせる場所、生きがいを与える場所にするために、様々なアイデアを実践しています。

ドラムコミュニケーションプログラム

もっと楽しく皆でワイワイやれるプログラムがあればいいな、と思っていました。それで、「脳トレ」の生みの親として有名な東北大学の川島教授に相談して生まれたのが、ドラムコミュニケーションプログラムです。

参加者全員がいろんな形のドラムを持って、ファシリテーターのリードのもと、即興で音楽を奏でるプログラムです。太鼓なんて皆さん触ったことないので、はじめは恐る恐るですよ。

でも慣れると、次第に気持ちが解放されて、思い思いのリズムで太鼓を叩き、それが折り重なって一つの音になっていくんです。

こうした経験すると、脳血流が盛んになり、脳活動が活発化するのですが、何より一体感が気持ちいいんですよね。重度と呼ばれる認知症で、ふだんは無表情の人も、楽しそうに太鼓を叩くんです。これは年に数回の特別なイベントじゃないですよ。住宅にも寄りますが、多いところで週に3回、日常的に叩いています。

そう!大人が本気で楽しめるかどうか、そこが肝心なんです。楽しくなければ自主性は発生しないし、予防改善プログラムの効果も得られません。心から打ち込めるものや、社会とつながれるものでないと、やる意味がないと思っています。

利用者のお年寄りが店番の駄菓子屋。世代間交流が自然に生まれる

駄菓子屋は、世代を超えた交流が生まれるきっかけになればと思って併設しました。

毎日夕方になると、放課後の小学生や幼稚園に通うお子さんを連れた親御さんが遊びにきて、繁盛していますよ。多い時は1日50人程来客があり、1万円近く売り上げます。今後展開する銀木犀には、すべて駄菓子屋を併設する予定です。

銀木犀 西新井大師の場合、店長は入居者の84歳の男性です。

入居した時は要介護度5だったのですが、毎日店頭に立っているうちに段々と元気になって、今では歩行器を自分の手で持ち運んでしまう位、ピンピンしています。

彼はアルツハイマー型認知症でもあるのですが、計算は子ども達が手伝ってくれますし、お店の運営に問題はありません。無邪気な子ども達が遊びにくると、住宅の空気も明るくなりますね。

地域の人の交流イベント

季節のお祭りも地域の人と顔を合わせる大事なイベントです。今年9月に銀木犀 鎌ヶ谷で行われた、「ぎんもくせい祭り」では、推計500名以上の地域住民のみなさんが集まってくれました。入居者も、入居者家族も、地域の子ども達も、社会福祉協議会も、町内会も自治会も、年齡も所属している場所も飛び越えて、皆で力を合わせてひとつのイベントを作るのっていいですよ。

入居者のみなさんには、屋台の店番を任せたり、手作りの盆栽を売ったり、主催者側として活躍してもらいました。生きる上で、役割を持つこと、誰かに頼られることは、何よりの活力になりますからね。参加者した地域の人から「ありがとう」と言われると、とても嬉しそうですよ。

こうした交流を通して、地域の方にも銀木犀を知ってもらうことで、介護に困ったときの相談先として頼っていただいたり、ギブ&テイクの関係が生まれています。


なぜイノベーティブだと思うのか?

以下の2点がイノベーティブです。

1点目は、暮らす人の目線、気持ちにフォーカスして、提供する機能ではなく「生きがいという気持ち」を差別化要因としている点です。「機能による差別化」と「顧客体験の差別化の違いです。

では、老人ホームのセグメントを要介護度と費用の2軸で比較しました。これは機能で分ける考え方に近いです。

この2軸とは異なる、「顧客体験」という新たな軸で差別化している点がイノベーティブですね。

2点目は、介護の在り方を「介護=据え膳上げ膳のお世話」から「生きがいを感じるセルフメディケーション(自己治療)」へ転換している点です。

いずれも、これまでの常識を覆すものです。

要介護者が、自分でできることは自分でやれるようにすればするほど、事故のリスクが高まる中、これにチャレンジして実現している点がイノベーションですね


人々の暮らしをどう変えるのか?

要介護者が生きがいを感じ、人間らしく最後まで活き活きと生きられるようになる、というのが素晴らしいです。これにより介護者のストレスも軽減され、介護疲れなどの問題も減りますね。


応用できる発想は?

提供する機能ではなく「生きがいという気持ち」を差別化要因としている点は、「機能による差別化」から「顧客体験の差別化として、様々なソリューションに応用できます。

介護の在り方を「介護=据え膳上げ膳のお世話」から「生きがいを感じるセルフメディケーション(自己治療)」へ転換している点も、重要なポイントです。「セルフメディケーション」は今後の医療や介護でのキーワードです。これを実現させるソリューションは、今後ますます増えてくると考えられます。


銀木犀のビジネスモデルキャンバス

銀木犀のビジネスモデルキャンバスを描きました。

で描いた通常のサ高住のキャンバスに、銀木犀の特徴を追記しました。(図のピンクハイライト部分)

提供価値として「生きがいを得られる」ことが最大の特徴です。

そのためのアクティビティとして、駄菓子屋、ドラムコミュニーション、地域との交流など、様々な生きがいを感じるイベントがあります。

その結果、単なる住居の提供という関係ではなく、「人と人との気持ちのつながり」という強い関係が生まれることが特徴だと考えられます。


参考資料

  • 駄菓子屋のある高齢者住宅 地域とつながり進化する介護ビジネス

https://www.projectdesign.jp/201512/community-care/002578.php

  • 銀木犀(ぎんもくせい)

http://www.ginmokusei.net/

  • 暮らしを楽しむ!最先端の高齢者住宅「銀木犀」とは|下河原忠道氏インタビュー

https://ninchisho-online.com/archives/13777/


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ABOUTこの記事をかいた人

1969年生まれの50歳、会社員。自称「お困りごと解決士」。会社では多くの人がいろんな事に困っています。プロジェクトが進まない、トラブル対応で早急に対策をとらないといけない、業務効率をあげたい、新しいシステムを入れたい、売上をあげたい、コストダウンしたい、など。そんな時、必ず頼りになるのが私です(笑) 元々は核燃料のエンジニア。30歳を過ぎてから社内で様々なプロジェクトをリード、コーチングするプロジェクト屋になる。多くの人を巻き込みながらプロジェクトをリードすることが得意です。オペレーショナル・エクセレンス(Operational Excellence、略してOpEx)、プロジェクト・マネジメント(Project Management)、チェンジマネジメント(Change Management)のエキスパート。どうすれば皆さんのお困りごとを解決できるのか?日々学んでいることをまとめています!