【ヘルスケアビジネスモデル27】クラウドで越える「技能評価・研修」の壁 ~ハート・オーガナイゼーション e-casebook

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専門医をクラウド育成~ハート・オーガナイゼーション~

今週の日経新聞に出ていた記事です。

「医療向けシステムなどを手掛けるハート・オーガナイゼーション(大阪市、菅原俊子社長)は循環器領域の専門医を育成するための研修に使うクラウドサービスの提供を始めた場所を選ばずに指導医の指導を受けることができる。医師の都市部集中により医療レベルの地域間格差は広がっており、地方における専門医の育成を促進したいニーズに対応する。」


クラウドシステムe-casebookによる専門医技能評価

日本心血管インターベンション治療学会(CVIT)が、長年の臨床研究で培われた厳しい基準で同学会が運営する「心血管カテーテル治療の新専門医認定医制度」にハート・オーガニゼーションが提供する「e-casebook」を採用しました。

「e-casebook」ウェブ上にアップした医療用画像をパソコンなどの端末で共有するシステムです。画像の特定部位を矢印で指定したりチャット機能で会話したりできるため、緻密な議論ができます(下図参照)。

研修には過去の臨床データを活用するため、使用前にデータ中の個人情報は自動で削除されます。

引用元: <https://www.nikkei.com/article/DGXMZO2695716015022018TJE000/>


従来の課題をクラウドで解決へ

CVITで専門医として認定されるには、筆記試験・症例リストの提出・冠動脈形成術の実技審査のクリアが主な条件です。

実技審査の立ち合いの課題

かつては実技審査として、実際の患者への施術に指導医が立ち合っていました

たった一度の治療で判定される受験者の緊張や、指導医一人が審査することの客観性、実技試験と兼ねて治療が行われる患者への倫理観など諸問題が山積していました。

また審査の受験以前に、全国の病院数に対して指導医の資格を持つ医師数が絶対的に足りない状況で、指導医が在籍する病院で研修を受けるのが必須という環境に当てはまらない、地方受験希望者の実情も大きな課題でした。

認定審査の作業負担

まず技術認定そのものの作業負担が、早期に解消したい問題でした。

集まった受験生のデータを数日がかりで審査・認定するため、委員会のメンバーは審査期間中の休日毎、通常の学会の比では無い時間を費やします

交通費・会場費・審査データ共有システム費の発生は当然ですが、何よりメンバーを集めるスケジューリングの手間と、「時間」という目に見えないコストが、各々の重い負担となっていました。

e-casebookのメリット

解決案を示すwebシステムを求めて、数社コンペを実施した結果採用したのがe-casebookです。

クラウド上で画像データを共有するシステム提案は他社でもありました。

アンジオグラフィー(心臓血管造影)やIVUS(血管内超音波検査)などの専門性に特化した国際基準規格の医系データ様式「DICOM」に対応している上、症例をアップロードする際、患者さんの個人データを自動的に消去する仕組みも決め手となりました。

データの取扱いはデリケートな作業で、実際かなり手をとられていたので、そのストレスがないシステムはとてもありがたいです。

認定審査へのe-casebookの導入はとてもスムーズでした。

受験生は必要なDICOMデータに症例報告書を添付してe-casebookにアップロード

CVITの専門医技能評価審査官3名が各自のパソコンからログインして評価、合議の上評価結果を審議会へ報告します。

これまで審査官のスケジュールを合わせ、場所を決め、時間を費やしてきた作業がかなり簡便になりました。

このクラウドを使ったシンプルな審査システムによって、敷居を低くしたことにより増加した受験者の対応が可能になりました。


e-casebookで専門医の技能研修を

e-casebookは「技能審査」だけでなく「技能研修」にも活用されます。

専門医を目指す医師は指導医の元での実技を伴う研修カリキュラムを履修することが義務づけられています

そもそも専門医が少ない地方では指導医が在籍する研修施設も少なく、研修を受けること自体ハードルが高くなって、専門医の数も伸び悩むという悪循環でした。

e-casebookを使えば、研修施設と連携施設をクラウドでつなげた研修を行うことができます。

日々の治療データを修練医と指導医のグループで共有して、リアルタイムで指導します。

治療のフォローアップやフィードバック、ノウハウの伝授など、やりとりのログはそのまま指導歴となります

まだこれから全国にこの研修システムを周知していく段階ですが、現在200(人数要確認)名ほど登録している指導医ひとりにつき、修練医3人くらいまでをマッチングして指導を行えたら理想です。

e-casebookには「フォーラム」という機能があります。

Web上でこれまでに経験した症例の医療画像データを共有した上で、医師同士が議論できる「ディスカッションルーム」です。

従来は、異なる病院間の先生同士で情報交換を行う場合、ハードディスクに収録された医療データを配送し、コンピューターにつなげて確認するという作業が一般的でした。

これに対してe-casebookでは、CT(コンピューター断層撮影)やMRI(核磁気共鳴画像法)などの画像データをクラウド上で共有することによって、「みんなで簡単に相談しあうことができる」ようになります。

画像を指定しながら議論を進行。画像にはコメントなどをログとして残すことができ、どんな質問が寄せられたのかを、他の先生につなげ、症例についてWeb上で活発なディスカッションを展開できます。

画像データとログがあり、タイムリーに多くのフィードバックがもらえるので、高い学習効果が期待できます。しかも簡便です。


e-casebookのビジネスモデル

e-casebookのビジネスモデルの特徴を整理するためビジネスモデルキャンバスを描きました。

カスタマー(CS)と価値提案(VP)は、技能評価を技能指導に分けて記載しました。

また価値がよく分かるように、技能評価と技能指導のビジネスモデルを「e-casebook導入前(従来)」と「e-casebook導入後」

に分けて模式的に表しました。

技能評価の価値提供

技能評価では、学会と審査官がメインの顧客です。従来の課題である「受験生の症例評価Meetingへ出席するための移動や時間(コスト)」が、e-casebook導入により、「いつでも、どこでも、簡単に審査評価できる」ことで時間とコストが大幅に削減されます。

これが提供価値になります。

専門医認定医評価というプラットフォームを押さえる

また学会は顧客であるとともに、重要なパートナーになります。

学会がリードする専門医認定医制度の評価システムとして採用頂くことで、審査官も受験生もこのシステムを使いますそれがそのまま、技能指導へ引き継がれます

つまり専門医認定評価というプラットフォームを押さえることで、CVIT学会と学会員を顧客として囲い込むことができます。この点が、このビジネスモデルの一番優れている点だといえます。

技能評価、技能指導でe-casebookを選んでもらうための機能上の強みが、国際基準規格の医系データ様式「DICOM」への対応、と症例をアップロードする際、患者さんの個人データを自動的に消去する仕組みです

技能評価の価値提供

技能指導では、顧客は指導医と研修医です。

従来の課題である、「画像がタイムリーに共有できず、すぐに必要な指導やフィードバックをもらえないが、e-casebookで画像データをクラウド上で共有することによって、「みんなで簡単に相談しあうことができる」ようになります。

画像データとログがあり、タイムリーに多くのフィードバックがもらえるので、高い学習効果が期待できます。これが価値提供になります。


他のビジネスモデルとの比較

オンラインで症例についてアドバイスをもらったり、ディスカッションするプラットフォームは、「メドピア」も提供しています。

大きな違いは、顧客と症例画像の有無です。メドピアは、製薬業界がメインのターゲットのため、症例画像がなくても有益な情報交換と議論ができると考えられます。

それに対して、日本心血管インターベンション治療学会(CVIT)では、症例画像が非常に重要です。e-casebookでは、国際基準規格の医系データ様式「DICOM」への対応、と症例をアップロードする際、患者さんの個人データを自動的に消去する仕組みにより、画像の共有を実現しています。これが差別化要因となっています。

このビジネスモデルは、症例画像が非常に重要となる、手術に関わる医師、学会、医療機器メーカーにとっては大変参考になります。

エムスリー(参考記事参照)やメドピアは、手術や医療機器というよりはむしろ製薬業界向けのサービスとなっています。

症例画像を共有、技能評価や技能指導することで、手術に関わる医師、学会、医療機器メーカーを囲い込める可能性があります。

大きな可能性を秘めたビジネスモデルではないでしょうか?


参考資料

  • クラウドで越える「技能評価・研修」の壁

<https://www.heartorg.co.jp/archives/voices/20>

  • e-casebook

https://www.e-casebook.com/

  • 【ウーマンシップ】ハート・オーガナイゼーション・菅原俊子社長

<https://www.sankeibiz.jp/business/news/140106/bsl1401060502001-n1.htm>


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ABOUTこの記事をかいた人

1969年生まれの50歳、会社員。自称「お困りごと解決士」。会社では多くの人がいろんな事に困っています。プロジェクトが進まない、トラブル対応で早急に対策をとらないといけない、業務効率をあげたい、新しいシステムを入れたい、売上をあげたい、コストダウンしたい、など。そんな時、必ず頼りになるのが私です(笑) 元々は核燃料のエンジニア。30歳を過ぎてから社内で様々なプロジェクトをリード、コーチングするプロジェクト屋になる。多くの人を巻き込みながらプロジェクトをリードすることが得意です。オペレーショナル・エクセレンス(Operational Excellence、略してOpEx)、プロジェクト・マネジメント(Project Management)、チェンジマネジメント(Change Management)のエキスパート。どうすれば皆さんのお困りごとを解決できるのか?日々学んでいることをまとめています!