【ヘルスケアビジネスモデル35】患者さんに価値を出すにはどうしたらよいか?を徹底的に追及した結果生まれた電子薬歴サービス「Musubi」。ビジネスモデル創出のお手本のようなカケハシのストーリー。

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ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト2019グランプリ受賞のカケハシCEO中尾豊氏講演

「ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト2019」のグランプリ受賞のカケハシCEO中尾豊さんの講演を聴く機会がありました。

引用元:https://type.jp/et/feature/8221


単なる電子薬歴サービス「Musubi」の話とおもいきや…

講演を聴く前は、カケハシが提供する電子薬歴サービス「Musubi」についての話かと思っていました。

ところが講演を聞いてびっくり。システムは当然素晴らしいのですが、そこまでに至る過程を非常に分かりやすくストーリーとして紹介されていました。

システムは結果として出てきたものであって、スタートは「患者さんに価値を出すにはどうしたらよいか?」

そこを原点として、現在の「Musubi」に至るまでのストーリーが新規ビジネスモデル創出のお手本のような話で、感動ものでした。


感動の新規ビジネスモデル創出ストーリー

患者さんに価値を出せる場所が薬局だった

「患者さんに価値を出せる場所はどこか?」というのがスタートポイントです。

医療全体として、一番患者さんに価値を出せる場所はどこか?と俯瞰して見た部分とビジネスとして成り立つ領域と、社会的意義が出せることを考えていて、30個くらいビジネスモデルを書いたそうです。

下記のような観点からビジネスモデルを一つ一つ評価・検証した結果、結果として残ったのが薬局だった、という話です。

  • 患者さんへ提供できる価値
  • 市場の状況
  • 競合の状況
  • 僕ら(カケハシ)がやると何故勝てるのか?
  • いつまで
  • どうやって

理由は、薬局というのが患者さんに価値を届けやすい環境でありながらも改善余地がたくさんあり、薬局が変われば、患者さんたちの体験は大きく改善すると考えたからだそうです。

薬局でどのように患者さんに価値を出せるのか?

お医者さんに何かを話すと、何か得られるという感覚を皆さんお持ちだと思います。私もそう思っています。

一方、薬局だと患者さんの最も大きなニーズは「早く薬を受け取れたらそれでいい」です。実際に薬局を利用する私も、そもそも服薬指導などあまり期待していません。確かに「早く薬を受けとれたらそれでいい」という気持ちがあります。

このように、実際に早く渡すことは大事なのですが、そこに付加的な価値提供が生まれづらい状況です。中尾さんは、それがすごくもったいないなと考え、着目しました。

一方、薬局側はどうでしょうか?

当然、「患者さんに価値を提供したい?患者さんに「ありがとう」と言ってもらえる価値を提供したい」というニーズがあります。

薬局で薬剤師さんと患者さんとの最大で唯一の接点が服薬指導です。薬の飲み合わせの問題や、飲み方(タイミングや量)の指導などです。場合によってはかなり注意が必要なケースもあるので、きちんと服薬指導したいという気持ちは、薬剤師であれば誰でも持っている気持ちだと思います。

私も調剤薬局をよく利用しますが、薬剤師さんはかなり事務的だな?と感じます。それは患者さんが「早く薬を受け取れたらそれでいい」と思っていることが大きな要因です。一方で薬局側の問題はないのでしょうか?

400件の薬局を回って課題を浮き彫りにする

中尾さんは、薬局の環境やオペレーションの要因が大きいんじゃないかと思って、そこから400件薬局を回ってヒアリングを実施しました。これがすごいです。

現場に課題があるのが分かっていても、400件も回って徹底的に調査する、というのはなかなかできないことです。

そこで浮かび上がってきた課題が、薬歴記録です。

調剤報酬請求の根拠となる記録なので、必ず記録する必要があります。ところが記録する項目が多く、この薬歴記録だけで一人の薬剤師さんが1-2時間も時間を取られます。そのため、その薬歴入力に意識が向き、一人一人の患者さんのための服薬指導に時間と意識が向けられていない、という課題がありました。

課題を解決するコンセプト

  • 患者さんにとって薬局が「薬を受け取るだけの場所」から、もっと価値の高い場所に
  • 薬剤師として「いかに患者さんへ付加価値を提供するか?」

この2つの課題を解決するために必要だと考えたのが「患者さんが会話をしたいという空間を作る。会話のきっかけを作る。」というコンセプトです。

徹底的に患者さん目線で考えるから出てくるすごいコンセプトです。

私だったら、価値って何だろう?服薬指導かな?だったら服薬指導のやり方を変えよう、と考えます。

「患者さんが会話をしたいという空間を作る。会話のきっかけを作る。」

すごい洞察力です。

課題を解決するソリューション

「患者さんが会話をしたいという空間を作る。会話のきっかけを作る。」

ソリューションが「服薬指導のついでに、生活の中でちょっとためになる情報を提供するシステム」です。

薬の飲み方に限らず「どういう生活をすると得をするか?」の情報にはとても価値があります。例えばお腹を下し胃腸薬が処方された方に「お肉を食べたい時は脂の少ない鳥のササミであれば消化にいいですよ」とか。

  • 「生活の中でちょっとためになる情報を提供する」ことで、会話のきっかけを作り、その流れで服薬指導する。
  • もう一つの薬剤師側の大きな課題であった薬歴記録の効率化

この2点をシステムとして実現したのが「Musubi」です。

「生活の中でちょっとためになる情報」の一例が下記です。情報は随時アップデートされ、患者さんの属性やその時の症状に合わせて個別化された情報が提供されます。

引用元:https://astavision.com/contents/interview/5172

そこから、患者さんと薬剤師さんとのコミュニケーションが始まり、お互いにタブレットを見ながら、薬について確認した内容が、薬歴記録になります薬歴記録の8-9割は、患者さんとの服薬指導で終わってしまいます

従来のシステムは服薬指導⇒薬歴というステップですが、Musubiでは服薬指導と薬歴を同時に行い、かつ患者さんに価値ある情報提供という+αがあります。

引用元:ttps://kakehashi.life/


患者さん、薬剤師(薬局)の評判

  • 服薬指導で患者さんが前のめりになって聞いてくれる
  • 初めてかかりつけ薬剤師さんに出会えました
  • 患者さんのうけがすこぶるよく、スタッフもその気になってきました

これらのコメントから読み取れるように、評判は抜群です。

日本全国60,000件弱の調剤薬局のうち、すでに10,000件から引き合いがある、という凄いソリューションです。


ビジネスモデルキャンバス

上記の内容をビジネスモデルキャンバスにまとめました。

「患者さんにとって有益な情報を提供する」というのが、患者さん、薬剤師(薬局)双方にとって共通する最大の価値です。

患者さんにとっては、それに加えて「親身になってくれる服薬指導」になります。

薬剤師(薬局)にとっては、患者が”ありがたい”と思う服薬指導も価値となり、さらに、それを実現するための「服薬指導と同時の薬歴記録」も価値なります。

患者と薬剤師(薬局)、カケハシの3者が、価値ある情報を介した「信頼」で強く結びついているのも面白い点です。


まとめ

中尾さんは最終的に40個程度のビジネスモデルを作成し、1つ1つ評価・検証しながらMusubiというソリューションに到達しました。

その際、最も重視したのが「「患者さんに価値を出すにはどうしたらよいか?」という徹底した顧客目線です。

そこを原点として、現場を徹底的に調査して「あるべき姿」をビジネスモデルとして描き実現性(マネタイズ、自分たちの強み・技術、コスト、規制などの環境要因など)を考慮して、半歩先にいち早く到達できるのが「Musubi」だったそうです。

このプロセスは新規ビジネスモデル創出のお手本のようで、それを一つ一つ徹底して考え、実践していることに感動を覚えました


参考資料

  • 創業2年で9億円調達したカケハシCEOに学ぶ「急成長する事業の作り方」
  • 薬局向けSaaS「Musubi」は、患者が健康になるために薬剤師の価値を上げるサービス ―― 株式会社カケハシ 中尾豊
  • 株式会社カケハシ – 医療をつなぎ、医療を照らす
  • グランプリはカケハシが獲得、経産省主催ビジネスコンテスト
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ABOUTこの記事をかいた人

1969年生まれの50歳、会社員。自称「お困りごと解決士」。会社では多くの人がいろんな事に困っています。プロジェクトが進まない、トラブル対応で早急に対策をとらないといけない、業務効率をあげたい、新しいシステムを入れたい、売上をあげたい、コストダウンしたい、など。そんな時、必ず頼りになるのが私です(笑) 元々は核燃料のエンジニア。30歳を過ぎてから社内で様々なプロジェクトをリード、コーチングするプロジェクト屋になる。多くの人を巻き込みながらプロジェクトをリードすることが得意です。オペレーショナル・エクセレンス(Operational Excellence、略してOpEx)、プロジェクト・マネジメント(Project Management)、チェンジマネジメント(Change Management)のエキスパート。どうすれば皆さんのお困りごとを解決できるのか?日々学んでいることをまとめています!