【ヘルスケアイノベーションのヒント1】イノベーションによる患者価値創造のロードマップの作り方~ヘルスケア産業のデジタル経営革命~

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アウトカムをベースにした医療:Value Based Health Care

マイケル・E. ポーター「医療戦略の本質」の「Value Based Health Care」という概念が広がってきています。

「患者さんが受ける価値、すなわちアウトカムをベースにした医療」ということになります。

端的な例として、ノバルティスは、画期的な新薬で治療後1か月終了までに効果を認めた場合のみに患者が費用を支払う制度を提案しています。これまで薬は効いても効かなくても処方された段階でお金を払いますが、この考えを根本から変える考え方ですね。

このノベルティスの提案については下記2つの記事も参照下さい。

  • 癌を撲滅する画期的な新薬と支払い制度~効果があった時にだけ支払いを求めるアウトカムベース(成果報酬型)の支払いが登場~
  • アウトカムベース(成果報酬型)の支払いのメリットについて~本当に保険財政の負担は減るのか?患者へのメリットは?~

患者価値創造のロードマップの作り方~ヘルスケア産業のデジタル経営革命~

デジタル時代では、Value Based Healthcareは加速されます。

それでは、具体的にどのような点を考慮し、患者価値を創造するようなロードマップを作成すればよいのでしょうか?

そのポイントがまとめられているのが、この本です。
「ヘルスケア産業のデジタル経営革命~破壊的変化を強みに変える次世代ビジネスモデルと最新戦略~」


製品中心からアウトカム中心への進化

まずは、従来と新世代のビジネスモデルの違いです。ポイントは「製品中心からアウトカム中心への進化」です。

  • 従来:製品中心、医師中心、スポットケア
  • 新世代:アウトカム中心、患者中心、トータル

次世代の4つのビジネスモデル

次世代には4つのビジネスモデルがあります。それぞれ簡単に紹介します。

リーンイノベーター

特定領域にフォーカスし収益力を高める。

例:ジェネリック医薬品企業

患者サービスイノベーター

薬や医療機器といった治療だけでなく患者周辺の価値向上のサービスも併せて提供する。診断前の情報提供など。

例:製薬会社、医療機器メーカー

バリューイノベーター

病院から家庭までの全てのシーンをカバーし、ヘルスケアシステム全体を改善することで患者アウトカムを向上し、医療システムに対して経済的価値を提供する。

例:医療機器メーカー、製薬会社

新デジタル医療企業

デジタルを武器にヘルスケア業界に参入する企業

例:Google, Apple, Amazon


製品中心からアウトカム中心への進化を戦略としてどのように考え、進めていけばよいのか?

それでは、例えば自社で製品中心からアウトカム中心へ、すなわちValue Based Healthcareへ進化しようとした時に、どのように戦略を考え、進めていけばよいのでしょうか

その答えは下記です。

4つのモデルを選択し、そのモデルに適した3つの戦略的選択を考える

4つのモデル毎に考慮すべきポイントが異なるので、自社の強みや狙いどころから4つのモデルを選択し、そのモデルに適した3つの戦略的選択を考えることです。

3つの戦略的選択とは

  • 独自の市場ポジショニングを明確にする
  • 差別化要因を明らかにする
  • ハイパフォーマンス組織を作る

で、下記に4つのモデルと具体的な戦略的選択のポイントを整理しました。

戦略的選択→

独自の市場ポジショニングを明確にする

差別化要因を明らかにする

ハイパフォーマンス組織を作る

↓イノベーターの種類

価値戦略(患者アウトカム、医療システムへのベネフィット)

資産と能力の評価

機能の取捨選択(既存機能の放棄)

新しいパートナーシップの確立

価値を評価する

患者アウトカム、医療システムへのベネフィット

 

リアルワールドデータや高度な分析法を使って価値を評価する

「患者アウトカムおよび価値」中心の事業構造

アウトカムベースの新しいKPI

「価値はローカル」グローバル/リージョン/ローカルのバランス

価値を高める新たな人材とスキル

リーン

ジェネリック

販管費、研究開発費を抑えてリターンを最大化

効率的なオペレーションモデル

患者サービス

重篤な疾患(医療システムの負担が大きい)が狙い目

満たされないニーズは何か?

患者サービスフレームワーク(図5-11)のどこに、どのような満たされないニーズがあるか?

疾患のプロ、ペイシェントジャーニーに対する知見

+デジタルデバイス

 アナリティクス

 デジタルインフラ

患者サービスフレームワーク(図5-11)のどこを狙うか?

オペレーションモデルの再定義

バリュー

新しいテクノロジーで医師と患者をつなぐ

特定の患者集団のケアマネジメントシステムを全体を最適化して、患者アウトカムを向上し、医療システムに経済的価値を提供する

Value Based Healthcare

ケアマネジメント全体の最適化(以下を使って全体像を描く)

患者サービスフレームワーク(図5-11)のマネジメントプロセス全体を見る。

マネジメントプロセス全体のシステム図

ケアマネジメントプロセス全体を最適化する共創、事業連携

新デジタル医療機器

ヘルスケア参入デジタル

Google, Apple, Amazonなど

デジタル参入ヘルスケア

GE, Phillipsなど

コンシューマデバイスやアプリの浸透

 

従来のビジネスモデルの再定義

「消費者目線」のデジタルサービス

 

「医療従事者」のためのデジタルサービス

 


具体的にどのように戦略を考えればよいのか?

実はこの本では、3つの戦略的選択まではまとめてありますが、その先の具体的な戦略立案の方法や事例はまとまっていません。ということで、ここから弊社をケースを念頭に置き、自分だったらこのように考えるだろう、という自分なりの理解をまとめます。

弊社は医療機器メーカーなので、4つのビジネスモデルのうち、患者サービスイノベーターやバリューイノベーターが当てはまります。どちらを選択するかを考える上で、患者サービスイノベーターとバリューイノベーターの違いを整理しておきます。

  • バリューイノベーター

ケアマネジメントプロセス全体が整備、最適化されて初めて有益なアウトカムが得られるようなサービス、仕組み

例:心不全、注意深いモニタリングと服薬が必要。医療機器ひとつ薬ひとつで健康は保てない

  • 患者サービスイノベーター

ある特定のサービスのみで患者価値向上となるサービス

例:患者コンシュルジュサービス、服薬マネジメント

バリューイノベーター、患者サービスイノベーター、どちらも選択可能ですが、ケアマネジメントプロセス全体を最適化するのは、外部のステークホルダーや規制も多くハードルが高いです。ここを最適化できると参入ハードルも高いので大きなアドバンテージになるので最終的にはバリューイノベーターを目指すべきだと思います。

ただハードルも高いので、最初のステップとしては、ある特定のサービスのみで患者価値向上となるサービスを提供する患者サービスイノベーターの領域を狙うことになると考えます。

バリューイノベーター、患者サービスイノベーター、どちらを選択するにしても、最終的には患者さんへのアウトカムが価値の源泉となるため、患者さんが辿るプロセス全体を理解することが重要だと考えます。


患者さんが辿るプロセス全体を理解する

下記のようなフレームワークを使って、患者さんが辿るプロセス全体を理解することができます。

ペイシェントジャーニー

  • 「ペイシェントジャーニーの作り方:実際にファシリテーションする前に整理してみました。」
  • 「ペイシェントジャーニーマップ 実際に作成してみました。やはり一目瞭然、ポイントや課題がよく分かりました。」
お困りごと解決士の虎の巻
お困りごと解決士の虎の巻
http://nanishu.com/archives/885
お困りごと解決士の虎の巻
  • 【心房細動2】ワークショップでペイシェントジャーニーを描く~心房細動って何?情報がばらばらで全体が理解できない。病院行っても対応は千差万別、どうすればいいの?~
お困りごと解決士の虎の巻
お困りごと解決士の虎の巻
http://nanishu.com/archives/3347
お困りごと解決士の虎の巻

患者サービスフレームワーク(図5-11

ケアマネジメントプロセス図

この中では、ペイシェントジャーニーマップが直感的で分かり易いと思います。書き方は参考記事を参照下さい。

差別化要因や新たな価値創造のポイントを探す

カスタマージャーニーマップをベースに、患者サービスフレームワークやケアマネジメントプロセスの要素を追加してと、差別化要因や新たな価値創造のポイントが見えてくると思います。そのようにして、ターゲットのサービスを検討していきます。

その結果、特定のサービスのみをターゲットした場合は患者サービスイノベーター、プロセス全体を最適化するような場合はバリューイノベーターとなります。

下記資料は、現在の製品中心の考え方では焦点があたらない「治療前」に、患者さんへ価値を創出するチャンスがあることを示すアンケート結果です。

  • 【ヘルスケアイノベーションのヒント2】~65%の患者さんが治療前の期間に最もフラストレーションを感じている。5人中4人が治療前に利用できるサービスを知らない。6割の人はサービスを知れば利用する~割の人はサービスを知れば利用する~

このようにカスタマージャーニーマップ上で、現在のフォーカスポイントではない前後を考えることが非常に重要になります。


モノからコトへ転換し市場を大きく捉える

患者さんが辿るプロセス全体を理解することに加えて、もう1つ重要なことは、「製品=モノ」から「サービス=コト」へ転換して市場を大きく捉えることだと考えます。

ポイントは下記記事にまとめていますのでご参照下さい。

  • デジタル技術による、「製品=モノ」から「サービス=コト」へのイノベーションの実例とイノベーションモデル~自社製品のサービスへの転換を考えるヒントになります~

「従来の製品=タイヤ」から「タイヤのリトレッドや燃費向上などのサービス」への転換した、ミシュランの例が具体的事例としてあげられています。

「製品=モノ」から「サービス=コト」へ転換するポイントは下記3点です、

  1. 市場を大きく捉える
  2. ビジネスインパクトを見極める
  3. デジタル技術を活用する

ミシュランは、従来のタイヤ販売の市場から、燃費向上サービスを想定したときの市場へと市場を大きく捉えました

従来の商用車向けタイヤでは7兆円の市場。

ところが、燃費向上サービスの場合、陸運物流の燃料コストが市場となるので(247兆円×31%)で76兆円、何と10倍以上の市場となります。

弊社のケースでも、このように「製品=モノ」から「サービス=コト」へ転換することで市場を大きく捉えるサービスを考えてみようと思います

いずれにしても、上記にまとめたようなポイントで、ロードマップを考えてみようと思います。

それを考えるためには、疾患ごとにペイシェント・ジャーニーを描いてみるとヒントが出てきます。

ペイシェントジャーニーについては下記にまとめています。


ヘルスケアイノベーションに関する記事

  • 【ヘルスケアイノベーションのヒント1】イノベーションによる患者価値創造のロードマップの作り方~ヘルスケア産業のデジタル経営革命~
  • 【ヘルスケアイノベーションのヒント2】~65%の患者さんが治療前の期間に最もフラストレーションを感じている。5人中4人が治療前に利用できるサービスを知らない。6割の人はサービスを知れば利用する~割の人はサービスを知れば利用する~
  • 【ヘルスケアイノベーションのヒント3】スマホで始まる未来の医療~病院にiPhone 3,400台超を導入~
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ABOUTこの記事をかいた人

1969年生まれの50歳、会社員。自称「お困りごと解決士」。会社では多くの人がいろんな事に困っています。プロジェクトが進まない、トラブル対応で早急に対策をとらないといけない、業務効率をあげたい、新しいシステムを入れたい、売上をあげたい、コストダウンしたい、など。そんな時、必ず頼りになるのが私です(笑) 元々は核燃料のエンジニア。30歳を過ぎてから社内で様々なプロジェクトをリード、コーチングするプロジェクト屋になる。多くの人を巻き込みながらプロジェクトをリードすることが得意です。オペレーショナル・エクセレンス(Operational Excellence、略してOpEx)、プロジェクト・マネジメント(Project Management)、チェンジマネジメント(Change Management)のエキスパート。どうすれば皆さんのお困りごとを解決できるのか?日々学んでいることをまとめています!